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キャッチコピーの事例

1989年の日産自動車「セフィーロ」のキャッチコピーを考察

キャッチコピーCase No.39呪文的に並べる

キャッチコピーの事例を取り上げる第39回は、1989年の日産自動車「セフィーロ」のキャッチコピーです。

くうねるあそぶ。

コピーライターは、糸井重里さん。

ここ数回、集中的に糸井重里さんの有名コピーを取り上げています。

前回前々回も紹介しましたが、今回のキャッチコピーについても、『まずは状況から話そうか。糸井重里のコピー10』(ほぼ日のコンテンツ)で、糸井重里さんご自身が解説しています。(インタビュアーは、有名コピーライターの谷山雅計さんです。)

谷山雅計さんはインタビュアーの役割ですが、上記コンテンツの雰囲気は対談的です。谷山さんも自身のエピソードを披露しています。ある広告コピーのディレクションを受けたとき、こう言われたそうです。「谷山さん、『くうねるあそぶ。』のようなコピーを書いてください」と。上記コンテンツには、そのディレクションを受けて書いた谷山さんの有名なコピーも紹介されています。(これは、次回取り上げようと思います。)

その谷山さんのコピーと「くうねるあそぶ。」の似ているところは、「言葉の並びの呪文的な感じ」(上記コンテンツ谷山さんの発言)とのこと。

そうすると、〝呪文的キャッチコピー〟という、コピーの型があると言えそうです。

さて、このレビューの目的であるキャッチコピーの事例を集めて、キャッチコピーの型や作り方を自分なりに考えるという本題に入りたいと思います。

「くうねるあそぶ。」というキャッチコピーは、「食う」「寝る」という、生活に(もっと言えば生命に)必要不可欠なものと、「遊ぶ」を同列に並べています。必然的に、「あそぶ」は、そのような必要不可欠なものというニュアンスを帯びてきます。遊びが必要不可欠なものという感覚は、ちょっと楽しい気分になれるものだから、好印象として受け止められるでしょう。

ここで、上記のほぼ日のコンテンツから、糸井重里さんの発言を引用します。

「そこで苦しみながら思いついたのが、
「ああ、クルマっていうのは遊びなんだな」
という考えなんです。
クルマを遊びだって言っていいときが
もうとっくに来てたんだなって思ったんです。」
(ほぼ日の上記コンテンツより)

そういえば1989年頃、クルマは遊びの重要アイテムだったという印象があります。そうだとすると、「あそぶ」はクルマのキーワードと捉えることができます。

つまり、「くうねるあそぶ。」というコピーは、自社製品(クルマ)のキーワード(遊ぶ)を、生命に必要不可欠なもの(食う、寝る)と同列に並べている、という構造になっています。

ここからキャッチコピーの作り方や型を見出すなら、〝必要不可欠といえる本質を捉えた言葉と自社製品のキーワードを同列に「呪文的」に並べる〟という手法です。

とはいっても、このような「呪文的」な並べ方は難しいうえに、これは有名コピーですから、「くうねる〜」はもう使えない。「くうねる」に比肩するような言葉、生活や生命に必要不可欠というものでなくても、なにかポジティブな言葉と自社製品のキーワードを「呪文的」に並べてみる。そんなキャッチコピーの作り方が考えられそうです。難易度は非常に高いかもしれませんが、うまく作れた時には、大きなインパクトをもたらすことができそうです。でも言葉の組み合わせに失敗したときには、ただの意味不明な呪文になってしまうかも?

初出:2025年07月26日