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【書籍紹介・レビュー】『理念経営2.0』(佐宗邦威)

book review 10 #理念経営 #佐宗邦威
『理念経営2.0 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』
著 者:
佐宗邦威
出版社:
ダイヤモンド社
出版年:
2023年5月

本書では、ミッション、ビジョン、バリュー、パーパスとはどのようなものかを明確にし、その作り方から組織に浸透させていく方法まで、「実践ワーク」を交えて紹介しています。

著者の佐宗邦威氏は、P&Gマーケティング部、ソニーを経て、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。

BIOTOPEは「企業の新規事業づくりやブランディングなどの支援に力を入れてきた」が、ここ数年、同社には企業理念の策定と活用支援の相談が数多く寄せられるようになったそうです。その理念づくりと実装を支援してきた経験に基づく著者の「仮説」が、本書にまとめられています。ALEというスタートアップや「理念経営で有名な」オムロンなど、実際に支援した企業のさまざまな事例を交えて説明しています。

章立ては、序章・1〜7章・終章で、7つの章はそれぞれ、「ビジョン」「バリュー」「ミッション/パーパス」「ナラティブ」「ヒストリー」「カルチャー」「エコシステム」をテーマとしています。

前半部分では、ビジョン、バリュー、ミッション、パーパスといった用語を整理し、それらの作り方を紹介しています。本書における用語の定義は、以下のとおり。

ビジョン:「組織が見たい未来像 WHAT WE WILL SEE」
バリュー:「組織が大切にしたい価値観 WHO WE ARE」
ミッション:「組織が果たしたい社会的役割 WHAT WE DO」
パーパス:「組織の社会的存在目的 WHY WE EXIST」

ミッションとパーパスについては、「かなり似通っている」と述べて、つぎのように記しています。

どちらも会社が社会でどんな役割を担うか、どんな価値をもたらすか、自分の会社の中心軸としてなにを置くかをひと言で言い切るものだ。どちらも、社会に対して自分たちがコミットする意思を示している。……。それを未来における社会的な存在目的(Why we exist)として表せばパーパスになり、現実的に自分たちが果たし続ける社会的役割(What we do)として表せばミッションになる。

ミッション、ビジョン、バリューはMVVと略されることもあり、セットのように捉えている方も多いのではないでしょうか。しかし著者は、これらすべてを最初からはっきりさせるべきだとは考えていません。企業が置かれているフェーズによると言います。このことは、企業のライフサイクルに沿って説明されます。

後半部分では、作成した企業理念を組織に浸透させていく方法を論じています。とくに重視しているのは、「組織のナラティブ」と「個人のナラティブ」を生み出し、それらを接続させること。たとえば、「組織のナラティブ」を引き出す実践のために、9つの質問で構成された「パーパスナラティブキャンバス」が用意されています。

これからの企業理念は、「みんなの物語」の源泉となるものであり(理念経営2.0)、これまでの「社長の誓い」(理念経営1.0)ではないと言います。つまり、理念経営2.0の重要なポイントは、みんなのナラティブを引き出すことです。

「理念経営2.0」を実行できるように、さまざまな「実践ワーク」を紹介しているところが、本書の特色でしょう。

「会社は「意義を生み出す場」にシフトしていく」と著者は見ており、「これからの企業においては、理念こそが経営資源の核なのである」と述べています。

初出:2025年08月12日