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【本の紹介・書評】『私とは何かーー「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎)

Book Review 9 「#分人主義」「#平野啓一郎」

『私とは何かーー「個人」から「分人」へ』
講談社現代新書
著者:平野啓一郎
出版社:講談社
出版年:2012年9月

小説家の平野啓一郎氏が、自身の提唱する「分人主義」を、豊富な具体例を交えて、わかりやすく伝えています。

「分人」とは、「個人よりも一回り小さな単位」だといいます。

「個人」という日本語は「individual」の翻訳で、その語源は「(もうこれ以上)分けられない」という意味とのこと。こうした語源から説き起こしています。

では、「個人」は本当に分けられないものでしょうか。たしかに、身体は分けることができません。当然ながら、身体は一つです。

人格はどうでしょうか。人格も当然分けられないという従来の見方に対して、「それは、私たちの実感と合致しているだろうか?」と著者は疑問を呈します。仕事相手、家族、友人、恋人、誰といるかによって、口調や表情や態度は随分と違うのではないだろうか、と。

本書では、人格は相手によって「自然と」変化してしまうものだと主張しています。つまり、人格は、他者との相互作用によって生じており、個人の中には複数の人格が存在している。これを「分人」と呼んでいます。両親との分人、恋人との分人……というように、多数の分人が自分の中に存在している、と。

つぎのように記されています。(以下の引用文の中の「分人化」は太字で強調されています)。

分人は、相手との反復的なコミュニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆく、パターンとしての人格である。必ずしも直接会う人だけでなく、ネットでのみ交流する人も含まれるし、小説や音楽といった芸術、自然の風景など、人間以外の対象や環境も分人化を促す要因となり得る。

分人は、「キャラ」や「仮面」とは異なることも述べられています。「キャラを演じる、仮面をかぶる、という発想は、どうしても、「本当の自分」が、表面的に仮の人格を纏ったり、操作したりしているというイメージになる」。しかし、分人は、そのようなものではないといいます。

分人は、相手との相互作用によって「自然と」そのような人格になるのであり、職場での分人も、両親との分人も、どんな分人もすべて「本当の自分」と考える。すなわち、「本当の自分」というのは複数あり、唯一無二ではない。自分を、相手ごとに生じる分人の集合として捉えています。

本書では、分人とは何かを説明し、分人という観点から、その人らしさ(個性)、子育て、恋愛など、さまざまな考察を加え、分人主義の思想を平易な表現で明らかにしています。

初出:2025年04月13日