2006年の東京ガスのキャンペーンコピーを考察

キャッチコピーの事例を取り上げる第40回は、2006年の東京ガスのキャンペーンコピーです。
ガス・パッ・チョ!
コピーライターは、谷山雅計さんです。
谷山さんがどのようなディレクションを受けてこのキャッチコピーを書いたかについては、『まずは状況から話そうか。糸井重里のコピー10』(ほぼ日のコンテンツ)で語られています。谷山さんはインタビュアーの役割ですが、同コンテンツでは谷山さんが自身の考えを話すこともあります。
「ガス・パッ・チョ!」を書いた際には、つぎのようなディレクションを受けたそうです。「谷山さん、『くうねるあそぶ。』のようなコピーを書いてください」(上記ほぼ日のコンテンツ)と。
そして、こう続けています。
「「くうねるあそぶ。」みたいなコピーって何だろうとか思いながら書いた結果、そっくりだとは思わないけれど、言葉の並びの呪文的な感じは似てるのかなあと。」(上記ほぼ日のコンテンツ)
ちなみに、『くうねるあそぶ。』は、1989年の日産自動車「セフィーロ」のキャッチコピーで、作者は糸井重里さんです。これは前回取り上げ、そのときにも上述の話題をご紹介し、〝呪文的キャッチコピー〟というコピーの型があると言えるのではないかと書きました。
「ガス・パッ・チョ!」はたしかに「呪文的」ですが、「ガスで、パッと明るく、チョっといい未来。」という意味を込めていることが明示されています。部分的に切り取って「ガス・パッ・チョ!」というわけです。しかしこれは、まず「ガスパッチョ。」が生まれ、その後に意味がつけられたそうです。そのことが谷山さんの著書に書かれています。
谷山雅計さんの著書『広告コピーってこう書くんだ!相談室(袋とじつき)』(宣伝会議/2015年)の「袋とじ」では、「ガス・パッ・チョ!」をつくった仕事の際に使用していた谷山さんのノートが公開されています。その内容について谷山さん自身が解説しており、その思考過程を垣間見ることができます。
ノートは見開きを1枚として全部で20枚公開されており、「ガスパッチョ。」が登場するのは、なんと18枚めです。
谷山さんの解説によると、「……ガスというキーワードが入っている〝強い言葉〟を探していた……」(前掲書)とのことで、そのなかで、スペイン料理の冷たいスープ「ガスパチョ」を思い出したそうです。
しかし、「ガスパッチョ。」と1回書いてはいるものの、この時点では、さほど関心を示していません。すぐに他のコピー案を掘り下げています。その後の19枚め、20枚めには「ガスパッチョ。」は出てきません。
谷山さんの記憶では、その後、「……「ガスパッチョ。」に自信をもった瞬間があったはず……」(前掲書)とのことなのですが、その部分のノートを紛失してしまったようです。残念ながら、どのような思考の流れで「ガスパッチョ。」案が浮上してくるのかはわかりません。
それでも、このノートからは、「ガスパッチョ。」が出てくるまでにさまざまな角度からコピーを考えていることが伝わってきます。このような思考過程が垣間見えるノートの公開(しかも本人による解説付)は、おもしろいですね。完全版ノートだったらもっと良かったけれど。
さて、このレビューの目的であるキャッチコピーの事例を集めて、キャッチコピーの型や作り方を自分なりに考えるという本題に入りたいと思います。といっても長くなったので、簡単なまとめで終わります。
今回の事例からは、〝伝えたいメッセージを作成して、そこから部分的に言葉を切り取って、短いインパクトのあるコピーをつくる〟という作り方が見出せそうです。(「ガス・パッ・チョ!」の場合は、上述したように、つくられた順番は逆ですが)。
また、「呪文的」なキャッチコピーにしたい場合は、「パッ」のようなオノマトペをうまく利用するのも一つの方法ではないでしょうか。